読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

かじりアト

ややオタク寄り。平凡アラサーOLの独り言

「狐笛のかなた」上橋菜穂子

本屋大賞を受賞した「鹿の王」が最近気になっているのですが、私は断固とした文庫本派(持ち歩きがどうしてもしんどくて…)。
ならば他の上橋菜穂子さんの作品を!と思ったものの、「守り人シリーズ」や「獣の奏者」は巻数が多くて、なんとなく手を出しづらい。
そんななか出会ったのが、この「狐笛のかなた」という作品でした。

 

狐笛のかなた (新潮文庫)

狐笛のかなた (新潮文庫)

 

 

筆者曰く、この話の舞台は、心の底にある<懐かしい場所>
そのとおり、物語を開くと、瑞々しい野山の風景が頭のなかに鮮やかに浮かび上がります。

 

私がこの物語の中で最も心を奪われたのが、霊狐であり、使い魔である野火の存在です。

 

本来は神々の住む<彼の世>で暮らす霊狐。
しかしながら野火は生まれてすぐに呪者につまみあげられ、術にかけられ、使い魔にされてしまいます。
使い魔にされたことで汚れた霊狐は、二度と故郷である<彼の世>に立ち入ることはできず、<この世>と<彼の世>の間である<あわい>で暮らし、主人に逆らえば命を失ってしまう哀しい存在へと成り果てます。

 

野火は子狐の頃に主人の命令で人を殺し、追手に追われているところを、この物語の主人公である小夜に助けられました。
そのときの手の温もりが嬉しくて、野火はその後ずっと小夜を陰ながら見守り、危険な目にあった時には助けてやるのです。
その姿があまりにも健気で一途で、そして儚くて、物語の最後までドキドキしながら読み進めてしまいました。

 

しかしながら、小夜と野火の純粋な姿とは裏腹に、物語の中では大人たちのドロドロした姿も描かれます。
長く争いを続ける隣り合った2つの国。
領地を潤す川を奪われ、親族をすべて呪い殺され、気づけば埋め難いほど深い溝ができた、その非道い争いのさなかで、なんとかその状況を打ち破るべく、必死にもがく小夜と野火。
結末は予想外でしたが…、あるべき形で締めくくられたことに非常に満足ですし、読後感も良かったです。

 

ただ、そもそも児童文学ということもあり、若干「もう終わってしまうのか」と残念な気持ちもありましたが。

 

大人も楽しめる美しい児童文学作品です。