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かじりアト

ややオタク寄り。平凡アラサーOLの独り言

「虐殺器官」伊藤計劃:いま自分の目に見えているものは…?

春頃に映画化のニュースを受けて、その前に一度原作を読みたいと思って購入。

 

しかしながら、前半部分で思いのほか読み進めるのに時間がかかってしまい、ならば映画で補完すれば良いかとしばらく放置していたのですが、最近になって今度はアニメ制作を手掛けるマングローブ自己破産のニュースを受けて、やはり原作で一度読んでおくしかないと再度手を伸ばしてみました。

 

読みきれるか少し不安ではあったのですが、後半に行くにつれてサクサクと読み進められて一安心。この作品、特に前半は一文毎の密度が濃く、専門用語も多発するため、脳のイメージが追いつかずに読み疲れてしまっていたようです。読書になれていないと、たまにこういうことが起こります。笑

 

以下、少しネタバレ含みます。

 

読み終わってみて「虐殺器官」とはそういうことかと納得。私の想定していた“器官”の遥か上をいく設定で、見事にしてやられました。

 

本作を通して痛感したのが、人は自分の見たいものしか見ないということ。それと同時に、人々が見たいものを作為的に作り出して、それ以外に目を向かせないようにすることも可能になります。そうやって、例えば世の中が平和である理由が非常に残虐なものであったとして、それとは異なる尤もらしいものに理由を置き換え、世論を都合よく支配する。そして、傍から見ると先進的で理想的な世界が出来上がる…。

大なり小なり、いまの日本でもそういった操作は行われているのかと思うとゾッとしてしまいました。ネット社会だとある意味こういった操作がし易い部分もあるように感じます。

 

また、本作は米軍大尉のクラヴィス・シェパードが、後進諸国で急増した虐殺の首謀者とされるジョン・ポールなる人物を追う形で描かれますが、後半ではシェパードとジョン・ポールの間に奇妙な同族意識が生まれるところも面白いです。ジョン・ポールが最後に、これまでの彼の研究の集大成ともいえるメモ書きをシェパードに渡したのも、敵同士ながら、その時点では近しいものを感じたからでしょう。

 

ただ、その用途は裏切られることになったわけですが。

 

エピローグについては、もちろんそのオチには「そうきたか」と驚かされたものの、なんだかアッサリ終わったな、という印象があります。それまでは、これでもかと言うほど残酷な虐殺風景や緊迫感あふれる戦場の様子・心理戦が描写されていましたが、このエピローグは、生涯許されることのない罪を負い、独りよがりな正義感を振りかざした主人公の独白という形で終わります。

 

とはいえ、これだけの世界観を構築し、それを一冊の本としてまとめられる伊藤計劃さんには、心底感服してしまいました。そしてその方がすでに亡くなってしまっていることが残念でなりません。

 

もう1作「ハーモニー」も、設定は全く異なるものの綿密に練られた世界観で、同じく救いがない話だそう。また少し時間をおいたら読んでみたいと思います。

 

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)